南極沿岸湖沼調査を終えて(5)-香月 興太 博士-

2018年6月12日

<img title="180612-TOP.jpg" src="/_files/00273206/180612-TOP.jpg" alt="180612-TOP.jpg" />南極沿岸湖沼調査を終えて(4)

~南極露岩域の地形~
 
文責:香月 興太
島根大学エスチュアリー研究センター
第59次南極地域観測隊夏・先遣隊 隊員
 

 前回、筆をおきますと書いておきながら何事もなかったかのように続けます。南極の露岩域を歩くと、その風景に感動すると共に、「ここを巡検や実習でつかえたらなあ」という思いが沸いてきます。通常、地表は植生に覆われているため、地形の特色が植生に隠されていたり、分かりにくくなっていたりする場所が多いのですが、南極露岩域は植生が非常に貧弱なため、各地形の特徴が明瞭に分かります。教科書に使われるようなお手本的地形をそこかしこにみることが出来ます。


写真19.東南極露岩域の一つ、ラングホブデ。現在南極大陸の約2%が露岩域にあたる。
 

 さて、南極大陸というのはご存知のように基本的には氷に覆われた大陸であり、氷の厚さは厚い所では4,000 mに達します。その為、南極大陸は氷の重さで押しつぶされており、氷の下の平均基盤岩高度は、西南極で-40 m、東南極で15 mと言われています。南極大陸は、広範囲に渡って海面の下に存在するのです(興味がある方は、調べてみてください。普段地図で我々が目にする南極大陸とは全く違う地形をみることが出来ます。)。氷の重さが原因で押しつぶされているので、暖かい間氷期に氷床が後退すると、重しが減った南極大陸の沿岸部はどんどん隆起します。現在の露岩域では、その隆起の証拠となる地形をみることが出来ます。


写真20.海岸段丘。
 

 上の写真は、露岩域沿岸部のあちこちで見かける地形、海岸段丘です。一般的に海岸段丘は、陸地が隆起している場所で見ることが出来ます。波打ち際の波浪による浸食が斜面をつくるために、陸地が隆起すると昔の海水面が侵食斜面として表れ、階段状の構造を作ります。が、どうも南極では事情が異なるようです。南極宗谷海岸では、海が結氷する冬場の海氷面は、夏の海水面と比較すると1 m程度高くなっていました。そして冬場に凍り付いた海が沿岸部を侵食するため、夏場に海岸に行くと1mほど高い位置に侵食面を見ることができます。南極沿岸部の海岸段丘は過去の海水面ではなく、海氷面を示しているのか、あるいは夏冬2つの侵食面が出来るのか、確認しておく必要があると感じました。  
 南極露岩域の一部がかつて海面下にあった証拠と並行して、かつて南極氷床が露岩域を覆っていた証拠も各地に残されています。下の写真(写真21)は削痕(あるいは擦痕)とよばれるもので、氷河・氷床底部に巻き込まれた岩が、氷河・氷床の動きに伴って、基盤岩を削りながら進むためにできるものです。かつて氷床・氷河の移動がどちらに向かっていたのかを教えてくれます。また、写真22は迷子石(ドロップストーン)というものです。基盤岩の上に転がっている石は、基盤岩とは全く違う石です。これは、かつて氷床の移動によって遠方から運ばれてきた石で、氷床が溶けて末端が後退した際に、地面に取り残されたものです。これら削痕や迷子石の分布を詳しく調べるとかつて氷床が露岩域をどこまで覆っていて、どのように移動していたのかを知ることが出来ます。世の中には賢くて色々なことを考える人達がいて、現在の科学技術にはこの迷子石がいつ氷床から切り離されて地面の上に残されたのかを調べる手段があります。氷河期が終わって以降、氷床がどのように後退してきたのか、南極がどうのように姿を変えてきたのか、そして今後どのように変化していくのかが分かる日もそう遠くはないかもしれません。


写真21.岩盤上の削痕。
 

写真22.かつて氷床の移動によって運ばれ、氷床後退の際に残された迷子石。
 

戻る