2016/03/24 第117回 - 香月 興太 博士
第117回の懇談会は、島根大学汽水域研究センター 特任講師の香月 興太 博士の話題提供で行うことになりました。皆様お誘い合わせの上、ご参加下さいますようお願い申し上げます。
第117回汽水域懇談会
題目 : 汽水湖の堆積物を用いた過去の台風災害復元と災害予防
話題提供者 : 香月 興太 博士(汽水域研究センター特任講師)
日時 :2016年3月24日(木)17:00~18:00
場所 : 島根大学汽水域研究センター2階セミナー室(201号室)
【発表の概要】
過去の台風・豪雨災害を復元し,その変動要因を明にする手法として汽水湖堆積物中の珪藻遺骸・粘土鉱物を分析し,西赤道太平洋の海水温変動や偏西風の変動指標と対比を行なった.韓国東海岸北部に位置する海跡湖ヒャンホでは台風および熱帯低気圧襲来時には湖内の塩分濃度が低下し,集水域からの土砂流入も増加するため,湖底堆積物には低塩分珪藻遺骸や陸源性堆積物が多く沈殿する.ヒャンホ西岸において深度14.0 mの堆積物を採取し,堆積構造と堆積年代を調べたところ,ヒャンホは約1万年前に形成され,6,000年前から4,300年前に掛けて湖内の塩分上昇に伴って年縞がよく発達していたことが判明した.この年縞層中における珪藻群集および鉄・マンガンの挙動は,台風等の豪雨による表土の流出を伴った淡水の流入とそれに伴う貧酸素水塊の解消で説明することができ,ヒャンホにおいて好低塩分珪藻種が増加し鉄および鉄に同調するマンガンの含有量が減少する区間は台風の襲来頻度が増加していた時期にあたる.年縞内における鉄・マンガンの含有量は当時の太陽活動の変動と極めて調和的に変動する.これは太陽活動の影響が北極周辺の気圧配置の変化を通じて偏西風の経路を変動させることで,台風の経路に影響を与えるからだと考えられる. 一方,現在の台風観測によると東アジアを来襲する台風とENSOには強い関係があることが知られているが,本コアの研究においても完新世中期のエルニーニョの発生頻度と韓半島への台風の来襲頻度には強い関係が見られた.ただし,この関係は偏西風が北上する時期が早い年にのみ確認でき,偏西風の経路が南方に長く位置するときにはエルニーニョ現象と韓半島に来襲する台風の間には関係が見られないことが明らかになった.すなわち台風に関するエルニーニョの影響の度合いは偏西風の経路に左右されるため,偏西風の経路変動とENSOの変動を組み合わせることで将来の台風の経路の予測ができると考えられる.
掲示用ポスター(ズームしてご覧ください)