第120回汽水域懇談会 - 菅沼 悠介 博士

公開日 2016年10月25日

  第120回の懇談会は、菅沼 悠介 博士(国立極地研究所・助教)の話題提供で行うことになりました。皆様お誘い合わせの上、ご参加下さいますようお願い申し上げます。

第120回汽水域懇談会

題目 : 東南極氷床変動の復元と氷床融解メカニズムの解明
話題提供者 : 菅沼 悠介 博士(国立極地研究所 助教)
日時 : 2016年10月25日(火)17:00~18:00
場所 : 島根大学汽水域研究センター2階セミナー室(201号室)

【発表の概要】

 近年観測され始めた南極氷床の急激な融解や,これに伴う海面上昇は,現代社会における重大な懸念である.最新の報告では,南極氷床融解の加速によって,2100年までに海面上昇が+2mにも達する可能性が指摘された(DeConto & Pollard, 2016など).一方,地球の歴史を振り返ると,大気CO2濃度が現在の値(400 ppm)に近く温暖だった時期には,南極氷床が顕著に縮小し,海面が最大で現在よりも20mも高かったことが既に報告されている(IPCC第5次評価報告書, 2013).グリーンランド氷床と西南極氷床が全て融解したとしても,約11mの海面上昇にしか相当しないため,このとき従来安定とされてきた東南極氷床も大規模に融解したはずである.つまり,現在のCO2濃度レベルにおいてさえ,東南極氷床も急激に融解し,縮小する可能性がある.ところが,今後進行する温暖化に対して,東南極氷床が融解を開始する閾値(Tipping point)や融解規模・速度は分かっておらず,このことは大きな科学的課題かつ社会的懸念となっている.
 一方,南極氷床の複雑な融解メカニズムを解明する為には,過去から現在の南極氷床変動を定量的に復元・観測することが有効である.これまで我々は,東南極内陸山地での現地調査と年代測定手法の改良により,過去約300万年間の絶対的な東南極氷床高度を求め,現在より温暖な地球における海洋循環・大気水分供給系に関する新たな仮説を提唱してきた(Suganuma et al., 2014など).しかし,東南極氷床,特に氷床末端の融解メカニズムの理解は今だ進んでおらず,気候モデルシミュレーションの中で最も大きな不確定要素となっている.そこで我々は,2016-2017の夏期シーズンに,昭和基地を拠点として宗谷海岸の氷床縁湖沼において新たな現地調査を実施し,東南極氷床融解メカニズムの解明に取り組む.本研究の進展によって,東南極氷床融解メカニズムの理解が進むと共に,世界の気候モデル研究の高精度化に不可欠な直接的データを提供することが期待される.

掲示用ポスター(253KB)

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