日本海沿岸から希少な底生無脊椎動物であるフジテガニが初めて見つかる

2017年4月1日

大澤 正幸(島根大学エスチュアリー研究センター 特任助教)
倉田 健悟(島根大学エスチュアリー研究センター 准教授)

報文概要
 沿岸海域の潮間帯から周辺陸部には、様々な無脊椎動物が暮らしており、なかでも一般に「カニ類」と呼ばれる短尾甲殻類 (Brachyura)は,皆さんに最も馴染みのある分類群の1つであると思います。ベンケイガ二科 (Sesarmidae)は、そのような場所で見つかる代表的な短尾甲殻類の1群です。日本ベントス学会編集 (2012)による「干潟の絶滅危惧動物図鑑-海岸ベントスのレッドデータブック」では,ベンケイガニ科の16種が取り上げられており、日本海沿岸から記録されている種では、アカテガニ(東北地域個体群)、ベンケイガニ、ウモレベンケイガニの3種が含まれていました。
 これまでに進めてきた、島根県沿岸域における十脚甲殻類相に関する一連の研究に引き続く調査をとおして、ベンケイガニ科のフジテガニ Clistocoeloma villosum (A. Milne-Edwards, 1869)を松江市島根町の海岸において採集しました。この種もまた、「干潟の絶滅危惧動物図鑑-海岸ベントスのレッドデータブック」に掲載されており、「準絶滅危惧 (NT)」」として評価されています。フジテガニは,日本国内では紀伊半島から琉球列島の西表島にかけて生息が確認されていますが、いずれの産地も太平洋または東シナ海の沿岸であり、日本海沿岸からの本種の記録は今回が初めてとなります。
 近年、島根県・鳥取県を含む「山陰」沿岸の内湾・汽水域からは、「暖海性」の短尾甲殻類が相次いで記録されています。特に本報のフジテガニは、インド-西太平洋の熱帯域に分布の中心を持つ「インド-西太平洋要素」の種に該当します。山陰全体の沿岸性無脊椎動物相の調査・知見が依然十分ではないことを考慮する必要がありますが、島根県沿岸が対馬暖流の影響を直接的かつ強く受ける地域であることを,これらの短尾類の発見は支持していると判断されます。
 本報に限ることではありませんが、沿岸の生物相・生物多様性について理解するには、その基盤となる正確な種・個体群の認識・把握が必要です。その正確な理解は、水域環境の変遷・変動に関わる生物情報としても大切です.アジアを中心とした、インド-西太平洋の沿岸域の生物多様性に関する研究の進展を、山陰地域における調査・研究、そして地域の皆様に活用していただく情報の蓄積につなげてゆきたいと考えています。

<発表雑誌>
ホシザキグリーン財団研究報告, 20: 213–218.
掲載日: 2017年3月31日
論文タイトル: 日本海沿岸からのフジテガニの初記録 [First record of Clistocoeloma villosum (A. Milne-Edwards, 1869) (Crustacea: Decapoda: Brachyura: Sesarmidae) from the coast of the Sea of Japan]
著者: 大澤 正幸・桑原 友春(島根県立宍道湖自然館 ゴビウス)・倉田 健悟 [Masayuki Osawa, Tomoharu Kuwabara, Kengo Kurata]

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フジテガニ Clistocoeloma villosum (A. Milne-Edwards, 1869)

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