南極沿岸湖沼調査を終えて(3)-香月 興太 博士-

公開日 2018年05月07日

<img title="180507TOP.jpg" src="/_files/00269353/180507TOP.jpg" alt="180507TOP.jpg" />南極沿岸湖沼調査を終えて(3)

~南極での食事~
 
文責:香月 興太
島根大学エスチュアリー研究センター
第59次南極地域観測隊夏・先遣隊 隊員
 

 南極での食事について語ります。といっても、南極滞在中のほとんどを野外で過ごした私は、観測隊の食事事情をあまりしりません。59次隊の調理隊員が作られた食事を一度も口にすることなく、南極観測隊での生活が終わってしまいました。まあ昭和基地にいたとしても、夏隊が滞在する夏宿の料理は調理隊員ではなく、自衛隊の方が作られるので、口にする機会はなかったとは思いますが。調理隊員の方が腕を振るわれるのは越冬期間になります。
 先遣隊として南極に入った我々は、前次隊である58次越冬隊の方々に暖かく迎えてもらいました。南極で調査を行うための現地訓練を行う間は、58次の調理隊員の料理をいただくことになります。ちなみに先遣隊は前次越冬隊には非常にお世話になり、59次先遣隊ではなく、58次後遣隊に名称を変えた方が良いんじゃないかと思わされます。昔の観測隊では越冬期間は野菜がなく食べられなかったという話を聞きますが、現在ではかなり改善しているようです。


写真8.夕食のお鍋。野菜もきっちり食べられる。 

 実際、食事は美味しく、流石プロの調理人と思えるものが今回は食べられたのですが、聞くところによると、越冬期間の食事は、調理隊員の方の技術が大きく影響されるので、隊によって食事の事情は大きく異なるようです。
 昭和基地にいると、調理隊員なり、自衛隊の方なりが作ってくれた食事をいただくことが出来るのですが、野外で調査を行うグループは、隊員たち自らが調理をする必要があります。事前に準備した肉、魚、野菜、麺類をもっていき、現地で料理することになります。もちろん料理できない時に備えて、インスタント食品も準備します。実際にどんなものを食べているか紹介します(写真9)。


写真9.野外で食べていた料理の一例。そのほとんどを田邊隊員が作ってくれました。大感謝! 

 結構良いものを食べているでしょう?実は今回、料理のほとんどを我々湖沼調査グループのリーダーである田邊隊員が作ってくれました。彼女は滅茶苦茶料理上手です。野外活動では一日中結構な重労働をするのですが、それにもかかわらず、仕事が終わってから毎日きっちり食事を作ってもらいました。実際美味しい食事があるのとないのでは、活力が違います。毎日レトルトでは、厳しい南極の環境下で調査はできません。しかし、当然ながらすべての野外活動グループがこんなに良い料理を食べられるわけではありません。では、調理できる人がいないグループはどうなるのか。その答えはこれです(写真10)。


写真10.調理器材が限られた野外での夕食例。味は結構美味しい。 

毎日レトルトと缶詰になります。まあ、レトルト食品も味は悪くないものがほとんどです。流石日本の技術といった感じではあります。でも写真9の食事とインスタントじゃいくらなんでも差がありすぎるでしょう。何が言いたいかというと、南極での調査をきっちりと行いたいのであれば、料理上手の隊員と行くか自分が料理上手になるかのいずれかが必須だということです。
 南極滞在中は食事以外でも、いろんなものを口にします。代表的なものは行動食です。自分で買って持って行ったものに加えて、観測隊や自衛隊から支給されたものを野外活動時には携帯します。チョコやナッツ、カロリーメイトなどを携帯して、休憩時間中に口にしてました。野外調査では基本的に20~30kgの荷物を背負って、平均2万歩程あるくので、栄養補給が重要になってきます。
 南極での飲み水は基本的には、池か河川の水です。そのまま飲むこともありますし、煮沸して、白湯やお茶、コーヒーとして飲みます。お茶のパックは非常に貴重です。以前も書きましたが、南極は非常に乾燥しているのでかなり喉が渇きます。その際、やはり味がついたものが飲みたくなるので、お茶パックやコーヒーの出番となるのですが、日本にいる時よりもはるかに口にするので、ガンガンなくなっていきます。今回も持ち込みの分はあっという間になくなり、田邊隊員が冬の間に昭和基地で発掘してくれた賞味期限5年目後の紅茶をよく飲んでました。賞味期限が切れて5年もたっていると、流石に気が抜けたような味なのですが、味がないよりはるかにまし、ということでなくなるまで飲んでました。予想に反してあまり飲みたくならなかったのが炭酸飲料で、航海にでると結構飲みたくなるので、かなり多めに買って持って行ったのですが、南極ではなぜか飲む気にならなかったです。後半よく飲んでいたのがカルピス。南極のきれいな水で飲んでもよし、雪にかけてシャーベットにしてもよし、ホットカルピスでもよしです。ビバ、カルピス!


写真11.氷河湖でカルピスかき氷を食べるレイチェル隊員。 

 旨い食事をたべて、移動中行動食を食べて、甘いものを飲む。夕食時にはお酒も飲む。こんな生活をしていて観測隊の体重はどうなると思いますか。太ると思うでしょう?・・・もちろん、当たり前のように太ります。私滞在期間中4.5kg太りました。南極に行く前色々な人に、南極の野外活動はやせるよ、と言われました。南極から帰ってきたら20代の頃の体重に戻れるかなと淡い期待も抱きました。・・・まあ世の中そんな甘い話はないんですよ。とはいえ、身が締まるのは事実だと思います。体重はだいぶ増えたにも関わらず、帰国後多くの人に「痩せた?」と聞かれました。運動量が多いので、腹回りとかの脂肪は落ちるんです。ただ、これが中々のトラップで、体重が重くなってるんじゃないかなと思いながらも、腹回りの脂肪が落ちて、ベルトは緩くなってくるので、ひょっとしたら痩せてるんじゃないか、と言い聞かせて食べちゃいます。野外に体重計はないですからね。そして調査を終えて、昭和基地やしらせに戻るときつい現実を待っていることになります。南極に行く予定の方は滞在中節制をすることをお勧めします。まあ食べないと体がもたないというのもあるんですが。

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