年縞堆積物を利用した高年代解像度の古環境復元~北海道藻琴湖の生態・環境史が明らかに~

公開日 2019年05月14日

<img title="190514-TOP.jpg" src="/_files/00296564/190514-TOP.jpg" alt="190514-TOP.jpg" />

 エスチュアリー研究センターの瀬戸浩二准教授ならびに香月興太講師は、科研費_基盤研究B「北海道亜寒帯地域における後期完新世の超高解像度解析による周期的気象現象」(研究代表者:瀬戸浩二)の一環として、北海道藻琴湖の湖底堆積物の特徴をまとめ、藻琴湖の水環境・生態系と藻琴川流域における開拓史ならびに周期的な気候変動とのかかわりを明らかにしました。海跡湖の生態系や水環境の変動要因となった人為的な環境変遷や短周期の気候・環境変動(太平洋十年規模振動や太陽黒点周期)の影響が明らかになったことにより、海跡湖の維持管理や保全に必要な情報がまたひとつ判明しました。
 近年、年代測定技術向上に伴って、高年代精度の古環境復元が求められるようになりました。現在の機器観測によって得られた気象データと対比できるような年代精度で、過去の環境や気候の経年変化を得る為にはどうすればいいのでしょうか。そんな時は、世界各地に存在する「縞模様」を用います。例えば、有名な縞模様として木の年輪があります。年輪を分析することで過去の気温などの情報を年・季節スケールで得ることが出来ます。湖の底にも縞模様が存在することがあります。残念ながらすべての湖で見られるものではありませんが、湖底が貧酸素・無酸素化し湖底の生物擾乱が少ない場所でよく見かけることが出来ます。縞模様の成因や堆積周期は様々ですが、1年周期で明暗層を繰り返すような湖底の縞模様を「年縞」と呼びます。北海道のオホーツク海沿岸に位置する藻琴湖は年縞が連続して堆積している稀有な海跡湖です。本研究では、藻琴湖の湖底に西暦1850年以降に堆積した年縞堆積物に含まれる元素組成と珪藻遺骸群集の分析を行い、藻琴湖の生態系および水環境の変遷史を明らかにしました。20世紀の藻琴湖の変化は、流入河川である藻琴川流域の環境変化が大きな影響を与えていることが分かります。特に1950年以降、藻琴湖は富栄養化し、湖底の堆積速度が次第に増加しているのですが、その背景には畜産業の発達に伴った流入河川である藻琴川の富栄養化があることが分かりました。また、このような人為的な環境変化とは別に、藻琴湖の生態系には10~20年周期の変化があることも分かりました。藻琴湖の珪藻種の内、特に顕著に変化を示すのは富栄養環境を好む種です。これらの種は太平洋十年規模振動に応じて10年から20年の周期で増加と減少を繰り返しています。オホーツク海沿岸では太平洋十年規模振動に応じて夏季の気温が増減します。その変化に応じて藻琴湖でも夏季の水温の高低が変わるために、表層における栄養塩の消費状況や湖底における堆積物からの栄養塩溶出状況が変わり、生態系の変化を促しているのではないかと考えられます。また、アマモなどの水生植物に付着する珪藻種も顕著な周期で増減します。面白いことにこちらは太陽の黒点周期と同調して増減します。アマモは光に鋭敏な水生植物ですから、太陽活動の変化に応じて湖内の植生が変化していると言いたいところですが、黒点周期による太陽光の変化は1 W m−2にも届きません。直接水中のアマモに影響を及ぼせるような変化量なのかむずかしいところです。しかし一方で、網走市における日照時間も藻琴湖内の水生植物に付着する珪藻種や黒点周期と同調して変動しています。おそらくは微弱な太陽活動の変化の影響を増幅する気候のシステムがあり、その結果として藻琴湖内の植生が太陽活動に応じて変動するのだと考えられますが、どのようなシステムなのかはまだ今後の検討が必要です。
 本研究は、人為的な環境改変が大きな海跡湖においても、水環境や生態系が太陽活動や気候変動に応じて10年から20年の周期で変動していることを示しています。これは藻琴湖に限らず他の海跡湖でも同様である可能性が高いため、海跡湖の水環境や生態系を保持していく上で、この周期的な変動を考慮する必要があることが分かります。

本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(B)17H02974の助成を受けたものです。
本研究成果は、2019年4月17日に、国際学術誌「Estuarine, Coastal and Shelf Science」に掲載されました。

<発表雑誌>
論文タイトル: Relationship between regional climate change and primary ecosystem characteristics in a lagoon undergoing anthropogenic eutrophication, Lake Mokoto, Japan
https://doi.org/10.1016/j.ecss.2019.04.016
雑誌名,巻,ページ:Estuarine, Coastal and Shelf Science, Elsevier,222巻,205–213ページ
著者:Kota Katsuki, Koji Seto, Akira Tsujimoto, Hiroyuki Takata, Takeshi Sonoda
Online 掲載日:2019年4月19日
出版:2019年6月

戻る