海跡湖の湖底調査で用いる採泥器の紹介
公開日 2019年06月27日
今週発刊された「地学雑誌 128巻3号」において、湖底堆積物の調査に用いる採泥器の紹介がなされました。湖底堆積物の調査では、様々な採泥器が用いられます。湖底の堆積物の種類や必要とする堆積物の量や長さに応じて、最適な採泥器が異なるためです。採泥調査には、一般に普及している市販の採泥器が使用されることも多いのですが、携帯型の採泥器は構造が簡素なものが多いため、各研究者が創意工夫を凝らして製作した採泥器が用いられることも多々あります。ただ残念なことにそのような個人の研究者によって作られた採泥器の多くは、優れた特性を持っていても世に知られることはほとんどありません。また逆に、採泥器を用いて湖底堆積物の採取を行なおうと志している研究者達にも、数多くの採泥器の中でどの器具が、自分が行おうとしている調査に適しているのか把握していない方々が多くおられるように見受けられます。
この論文では、著者になじみの深い11種類の代表的な採泥器や独創的な採泥器に関して、それぞれの特徴(適した調査や利点・問題点)の紹介がおこなわれており、種々の堆積物調査に適した採泥器が把握できるようになっています。湖沼堆積物を用いた研究では、主に現在の湖底の環境や底質を調べるために行わる表層堆積物の調査と、湖底堆積物層序や環境の経年変化を調べるための柱状堆積物調査の2種類に大別することができます。表層堆積物の採泥に用いられる器具は、主にグラブサンプラーと呼称される採泥器であり、一定面積の表層堆積物を乱さずに採取することが出来ます。一方、柱状堆積物の採取を目的とする場合、用いる採泥器の種類は、まず調査地点の水深によって大別でき、そこから採取したいと思う堆積物の種類や長さに応じて、採泥器の種類を使い分けます。水深が10 mを超える深い湖の堆積物を採取する場合、投下式と呼ばれる採泥器が良く用いられる一方で、水深が10 m以下の浅い湖の堆積物の採取を目的とする場合、押し込み式と呼ばれる採泥器の方が研究目的に合致することが多くなります。本稿で紹介されている採泥器は、グラブサンプラー2種類、投下式4種類、押し込み式5種類となります。
本稿で取り扱っている採泥器は次の通りです。
1.エクマンバージ採泥器
2.スミスマッキンタイヤー採泥器
3.離合社製グラビティーコアラー
4.リムノスコアラー
5.ノッキングコアラー
6.マッケラスピストンコアラー
7.簡易型押し込みピストンコアラー
8.瀬戸式不擾乱半割ピストンコアラー
9.菅沼式可搬型パーカッションピストンコアラー
10.マルチサンプラー
11.ロシア式ピートサンプラー
実はこの論文で紹介された採泥器の多くは、ここ島根大学エスチュアリー研究センターが所蔵しており(一部は韓国地質資源研究院もしくは国立極地研究所所有)、実際に調査で用いることが可能です。エスチュアリー研究センターには、この論文で紹介された採泥器の他にも、特注のランスサンプラー(大型検土杖)やほかの市販グラブサンプラーなどが取り揃えており、調査目的に応じた採泥器の検証や選択を行うことが可能です。
本稿で紹介した採泥器を用いた調査には、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(B)課題番号 16H05739(代表者菅沼悠介)、新学術領域研究(研究領域提案型)課題番号 17H06321 (代表者福田洋一)、および公益財団法人東レ科学振興会研究助成金(代表者菅沼悠介)、韓国地質資源研究院受託研究費(代表者香月興太)の一部が使用されました。
<発表雑誌>
雑誌名,巻,ページ:地学雑誌,128巻3号,359–376ページ
題名:湖底堆積物調査における携帯型採泥器具の種類と特徴について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/128/3/128_128.359/_pdf/-char/ja
著者:香月興太・瀬戸浩二・菅沼悠介・Dong Yoon Yang
出版:2019年6月
<図1>論文で紹介された押し込み式採泥器。右上の採泥器は当センターの瀬戸准教授が採取後に堆積物の内部構造を乱さずに確認するために開発した採泥器(夏原技研製)。下は国立極地研究所の菅沼准教授が中心になって開発した採泥器で、携帯型採泥器としては稀有な砂礫層の採取能力を有する。