東南極日印共同採泥計画を終えて(1)-香月 興太 博士-

公開日 2019年12月20日

<img title="191220-TOP.jpg" src="/_files/00184809/191220-TOP.jpg" alt="191220-TOP.jpg" />東南極日印共同採泥計画を終えて(1)

「マイトリ基地とインド隊」
 
 
文責:エスチュアリー研究センター 香月興太
 
 インド人親切、超勤勉。
 縁が出来たのか2年ぶり2度目の南極大陸調査に参加してきました。といっても今回は日本南極地域観測隊のメンバーとしてではなく、SONIC (Schirmacher Oasis Nihon (Japan) India Sediment Coring Project: シューマッハ・オアシス日印共同採泥計画) の一員としての南極行きとなります。昭和基地がある宗谷海岸から西に約1,000 km離れた露岩域、Schirmacher Oasis(シューマッハ・オアシス)にインドのマイトリ基地があり、マイトリ基地に滞在しながらシューマッハ・オアシスの湖沼堆積物調査を行ってきました。滞在したマイトリ基地は、香辛料の香りが漂い、ピンクを基本とした内調でエキゾチックな音楽(宗教音楽やダンスミュージック)が流れる、どこから眺めてもインドな基地です。到着当時の2019年11月には第38次越冬隊が滞在しておりました。
 

写真1.東南極シューマッハ・オアシスにあるインドのマイトリ基地。南側には大陸氷床が迫る。写真には写っていないが北側はZub湖という湖に面している。
 
 SONICは日本人研究者3名、インド人研究者2名のグループ。シューマッハ・オアシスの調査では、SONICの5名の研究者のほかにマイトリ基地からサポートの人員を出してもらったのですが、このサポート隊から、というか越冬隊全体から「研究しに来たんだな。よっしゃ、万全のサポートをしてやるからな。」感が溢れ出ていて凄かったです。実際に超が付くほど献身的なサポートで、調査に行く際は「これキャラバンですか?」というほど人員を出してもらって機材を運んでもらい、採泥調査もやり方をバンバン覚えて率先してやってもらいました。だんだん自分のやる仕事がなくなっていくのを実感しましたね。午後の採泥で採れた堆積物の長さが短いと、「よしもう一回やろう」と提案してくれて、ヒンドゥー語は分からないのですが、その際は基地に何やら遅れるとかの連絡を入れてました。時折英語で「9時半」とかの単語が耳に飛び込んできて、「9時半までやるの!?」と驚かされました。
 

写真2.凍結した湖沼に穴をあけての湖底堆積物採取中の風景。これでもかというほどのサポート人員。やる仕事がないので写真撮影。
 
 ちなみに調査ではちょくちょく色々な器具が壊れたり、不調になったりするのですが、基地にもどって遅い夕食を取っていると、食事の後に「修理しておいたよ」と「これで明日の調査もばっちりだな」と言わんばかりの笑顔と共に渡してくれます。よって夕食後も当日採取した試料の後処理と翌日の採泥調査の準備のする流れとなります。インド隊の押せ押せの雰囲気に流されて毎日調査してました。南極出発前に作った調査予定表は「これ無茶だろ!」というような過密スケジュールのつもりだったのですが、実際の調査はさらにハイペースという状態でした。体のなまった研究者にはかなりきついペースです。一方、サポートをしてくれているインド隊の方たちは毎日10-12時間ぐらい我々の調査に付き合ってくれていて、その後基地の設営仕事をやっている状況でした。実際頭が下がります。
 インド基地で生活していると、よく色々な隊員に「生活に問題ないか?」と声をかけられるので「Everything good. No Problem!」と返してました。実際に色々と気を配ってもらって、大体問題のない生活を送らせてもらっていたのですが、実のところ口に出せなかった大きな問題がありました。水です。マイトリ基地は水が少ない基地です。前回の南極調査はほとんどの期間を野外で過ごしており、風呂もシャワーもない生活でしたが、今回は基地をベースにした調査です。行く前は「外国の基地だし風呂はないだろう。でもシャワーは毎日浴びられるだろうし。」と当然のように考えていたのですが、なんとシャワーを使えるのは週に一度でした。毎日、寒冷乾燥の南極野外で泥まみれになっているのにシャワーは週一度。しかもシャワーは水。蛇口を捻って出てくるのはお湯じゃなくて水です。神様、なぜ私は今回介護用の体拭きタオルを南極に持っていかなかったのでしょうか?まあ、神様に尋ねるまでもなく飛行機で南極入りする我々は運搬できる容量・重量制限が厳しいので、調査機材以外はあまり持ち込めないからなのですが。しかし、如何に頑強なインド人でも週一のシャワーを水で済まそうなんて苦行を好む人はいないらしく、お湯で体を流す方法はきちんと準備してあります。シャワーでバケツに水を貯め、そこに電熱線を入れるのです。そうすると30分前後でバケツの水がお湯に変わるのでそのお湯で体を流します。お湯で体を洗うのも一苦労です。  
 聞くところによると、シャワーから水しかでないかどうかはさておき、水不足によりほとんどシャワーを使えないという状況はマイトリ基地に限らず諸外国の基地ではごく一般的なことらしいです。風呂なし・シャワーなしでは体の疲れがとれず、調査の疲労が溜まっていく一方ですが、実際南極だから仕方がないのでしょう。「お風呂に入りたいなあ」と思いながら寝床にはいり、南極の夜は更けてゆくのでした。
 

写真3.調査の足、Pisten Bully。頼りになる雪上車。前のショベルに荷物を入れられるので運搬能力も高い。
 

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