マングローブ林に生息するカニ類が莫大な量の落葉を摂食することでマングローブ生態系の物質循環が維持されていることが判明

公開日 2020年05月12日

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  マングローブ林(図1)ではマングローブから大量の落葉が供給され、土壌に堆積します。堆積した落葉は主に微生物によってゆっくり分解されていきますが、このような落葉の分解には微生物だけではなく、カニ類や巻貝類などの大型の底生動物も重要な働きをしていることが報告されています。特に、東南アジアやオーストラリアなどのマングローブ林において高密度で生息するベンケイガニ科のカニ類(ベンケイガニ類)は、落葉を破砕・摂食し糞として排泄することで微生物分解を促進し、マングローブ生態系の物質循環に貢献していると考えられています。しかし、ベンケイガニ類が実際に野外でどれほどの量の落葉を摂食しているのかといったことはまだあまりわかっていませんでした。そこで本研究では、沖縄県西表島のマングローブ林を調査地として、本調査地に優占するベンケイガニ類のフタバカクガニParasesarma bidensを対象に野外ケージ実験を行うことで、フタバカクガニの摂食活動によって落葉がどの程度減少するのかを検証しました。実験では、フタバカクガニと落葉を入れたケージを設置し、1週間後に食べ残った落葉を回収しました(図2)。
 野外ケージ実験の結果、フタバカクガニの落葉摂食量は、マングローブから供給される落葉量の9割近くに及ぶことが明らかとなりました。このことから、本調査地のフタバカクガニは、大量の落葉を摂食することで、マングローブ生態系の物質循環に大きく貢献していることが示唆されました。
 本研究は、エスチュアリー研究センター川井田俊助教と東海大学沖縄地域研究センター、水産・研究教育機構水産大学校、東京大学大気海洋研究所との共同研究の成果です。また本研究で用いた野外ケージ実験については、英文書籍“Japanese Marine Life - A Practical Training Guide in Marine Biology”中の” Experimental Design in Marine Ecology”セクションにてその詳細な手法の解説がされています。


図1. 調査を行った沖縄県西表島のマングローブ林


図2. 野外ケージ実験に用いたケージ(左)と実験デザイン(右)。ワイヤーメッシュに目合10mmネットを張り箱型に成形したケージ(縦50cm, 横50cm, 高さ45cm)を林床に約20cm埋め込んで実験を行った。ケージ内にフタバカクガニと落葉を入れ、1週間後に食べ残った落葉を回収した。

 

<発表雑誌>
1.タイトル:マングローブ林に生息する“落葉食主義”のカニ類 
著者:川井田俊

雑誌名,巻,ページ:うみうし通信,No. 98, 4–5ページ
出版年月:2018年3月

2.タイトル:琉球諸島西表島のマングローブ林に生息するフタバカクガニParasesarma bidensの落葉摂食量
著者:川井田俊,大土直哉,河野裕美,渡辺良朗,佐野光彦
雑誌名,巻,ページ:La mer, 56巻,37–47ページ
出版年月:2018年6月

<英文書籍>
タイトル:Japanese Marine Life - A Practical Training Guide in Marine Biology
https://link.springer.com/book/10.1007/978-981-15-1326-8
https://doi.org/10.1007/978-981-15-1326-8
編集者:Kazuo Inaba, Jason M. Hall-Spencer
該当セクションのタイトルおよび著者: Experimental Design in Marine Ecology (pages 273–282); Koetsu Kon, Hideyuki Yamashiro, Masahiro Horinouchi, Shun Kawaida
出版社:Springer
出版年月:2020年5月

※本ページの図は、うみうし通信、No. 98, 4–5ページから引用しました。

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