新任スタッフ紹介 - 仲村 康秀 博士
公開日 2020年06月01日
自己紹介, Introduction
仲村 康秀 博士, 特任助教
Dr. NAKAMURA Yasuhide, Assistant Professor
令和2年5月1日付けで島根大学エスチュアリー研究センターの特任助教に着任した仲村康秀 (なかむら やすひで) と申します。専門は単細胞動物プランクトンの生態、骨格構造および多様性ですが、プランクトン全体の群集構造についての研究にも取り組んでおります。どうぞよろしくお願い申し上げます。私は、北海道大学農学部で学士号を取得し、フランスのストラスブール大学への留学などを経て、2015年12月に北海道大学水産科学院の博士課程を短縮修了しました (水産科学博士号取得)。その後、つくばの国立科学博物館にて4年間ポスドクとして「海洋における単細胞動物プランクトンの生態と多様性解明」および「霞ヶ浦に生息するイサザアミ類の餌資源解明」等の研究に勤しんできました。
「単細胞動物プランクトン」というのは聞きなれない言葉かもしれませんが、これは文字通り「プランクトン性で主に従属栄養である単細胞生物」の総称です。単細胞動物プランクトンには放散虫類やフェオダリア類などが含まれますが、多くの種はガラスとほぼ同じ成分 (SiO2・nH2O、オパール) の殻を持っており、その形は非常に美しく多様です (図1)。特に放散虫類の殻は化石として残りやすい事から、地層の地質年代を決定するための道具 (示準化石) として使われています。一方、海洋生物としては不明な部分が多く、研究があまり進んでおりません。これまでの海洋生物学的研究では、カイアシ類やクラゲ類などの (多細胞の) 動物プランクトンや、珪藻類・渦鞭毛藻類に代表される植物プランクトンに関する知見が、数多く蓄積されておりました。ところが単細胞動物プランクトンに関しては基礎生物学的な情報が乏しく、彼らの生態や多様性については知見が非常に限られていました (Nakamure & Suzuki 2015a, b)。
しかし、近年の調査により、現在の海洋では従来の予想を大きく上回る数の単細胞動物プランクトンが生息している事が分かってきました。例えば、日本海の水深2,000–3,000 mの深海では、フェオダリア類に属するヤマトハリフウセン (Aulographis japonica) という1種が、全動物プランクトンバイオマスの72.1%を占める事が分かっています (Nakamura et al. 2013)。単細胞動物プランクトンが多産する現象は、熊本沖、地中海のフランス沿岸および北太平洋の中央部等でも確認されており (データ未公表)、海洋の食物網や物質循環においてフェオダリア類や放散虫類が重要な役割を果たしている可能性が示唆されています。また、この10年間で日本近海から多くの未記載種が見つかっているため、北太平洋周辺では単細胞動物プランクトンの種多様性が過小評価されていると思われます (Nakamura et al. 2013, 2016, 2018)。
エスチュアリー研究センターでは、これまで培ってきたプランクトンの分析技術と経験を活かして、宍道湖・中海における水圏生態系構造の解明に取り組みたいと考えております。若輩者故に未熟な点も多いと思いますが、ご指導ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。