開学70周年記念事業 第148回汽水域懇談会 -中村 英人 博士/安藤 卓人 博士/服部 由季 氏-【11/18開催】
公開日 2019年10月23日
第148回の懇談会は中村 英人 博士(大阪市立大学大学院)、安藤 卓人 博士(北海道大学)、服部 由季 氏(北海道大学理学院)の話題提供で行います。皆様お誘い合わせの上、ご参加下さいますようお願い申し上げます。
開学70周年記念事業 第148回汽水域懇談会
題目 : 湖沼堆積物中の有機物に保存された過去の生態系情報―バイオマーカーとパリノモルフ,中海における研究事例―
話題提供者 : 中村 英人 博士(大阪市立大学大学院 特任講師)安藤 卓人 博士(北海道大学 北極域研究センター研究員)服部 由季 氏(北海道大学理学院 修士2年)
日時 : 2019年11月18日(月) 16:00~17:30
場所 : 島根大学 エスチュアリー研究センター 2階セミナー室(201号室)
【発表の概要】
過去の気候変動や人為改変に対する生態系の応答を理解することは、将来予測の観点からも極めて重要です。特に人間活動と密接にリンクした湖沼・エスチュアリー・沿岸域の生態系の急激な気候変動に対する応答を理解することは急務です。今回は、古環境情報のアーカイブである堆積物中の有機物に着目して古環境記録を読み解く研究を紹介します。
堆積物中の有機分子のうち、起源生物と対応付けられる分子は「バイオマーカー」として、過去の環境や生態系を復元するツールとして用いられてきました。ハプト藻に由来する長鎖アルケノン(図1a)は海洋堆積物中に広く含まれ、ハプト藻の生育時の水温に応じて不飽和度が変化することから古水温計として利用されています。アルケノンは湖沼堆積物からも検出され、国内は、秋田県一ノ目潟、北海道豊似湖、島根県宍道湖・中海から報告されています(図2)。湖沼のアルケノン生産種は、外洋種とは科レベルで異なり、分類群ごとにアルケノン組成と水温応答も異なりますが、バイオマーカー組成や環境DNA分析により生産種を絞り込むことで湖沼の古水温計しても応用できると期待されています。また、真正眼点藻や一部の珪藻に由来する長鎖アルキルジオールも古水温計や海洋における湧昇指標への応用が注目されています。汽水域や沿岸部では、淡水生の真正眼点藻由来と考えられる C32 1, 15-ジオール(図1b)が河川流入指標となる可能性があります。宍道湖・中海の表層堆積物(斐伊川河口付近から美保湾にかけての塩分トランセクト)と中海の堆積物コアのバイオマーカー組成の解析の結果、アルケノン生産種の交代や淡水種生真正眼点藻の寄与の変化といった、水域表層の生物群集変化が明らかになってきました。過去約600年間の予察的な水温復元結果から、中海周辺の気候変動についても議論します。
一方、「パリノモルフ(有機質微化石)」(図3)は、幅広い分類群の生物の有機質殻や遺骸に由来し、独特の生物群集の記録を保持する有力な古生態系解析ツールです。しかし、起源不明なパリノモルフも多く、堆積物中での保存過程についても未解明な部分が多い。今回は、パリノモルフの高分子構造に着目した最先端の研究を紹介しながら、中海・宍道湖試料を用いたパリノモルフ研究の展望についてもお話します。化石)」(図3)は、幅広い分類群の生物の有機質殻や遺骸に由来し、独特の生物群集の記録を保持する有力な古生態系解析ツールです。しかし、起源不明なパリノモルフも多く、堆積物中での保存過程についても未解明な部分が多い。今回は、パリノモルフの高分子構造に着目した最先端の研究を紹介しながら、中海・宍道湖試料を用いたパリノモルフ研究の展望についてもお話します。