1952年を「人新世」の始まりとする科学的根拠を統合【エスチュアリー研究センター 齋藤文紀 特任教授】
公開日 2026年09月29日
島根大学エスチュアリー研究センターの齋藤文紀特任教授と愛媛大学沿岸環境科学研究センターの加三千宣教授らが参画する国際研究グループは、「人新世」を1952 年に始まる地質時代として定義する科学的根拠と、その定義を研究・教育・政策に生かす方向性を、2 編のPerspective 論文として統合的に提示しました。
第1 論文では、湖、内湾、海底、泥炭地、氷床、サンゴ、洞窟などからなる世界12 地点の地質記録を比較し、1952 年に始まるプルトニウム同位体の急増が、地球規模でほぼ同時に確認できる最も精密な境界指標であり、化石燃料燃焼、工業汚染、生物相変化など多数の指標も1950 年代の急変を支持するとまとめました。
第2 論文では、人新世を「完新世の比較的安定した地球環境から、人間活動によって地球システムが大きく逸脱した時代」と捉え、1952 年を開始点とする一貫した定義の必要性を論じました。定義を安定させることで、地球科学だけでなく、社会科学、歴史、教育、芸術、環境政策、国際法をつなぐ共通基盤になると提案しています。
2 編の研究成果は、2026 年9 月8 日に『Nature Reviews Earth & Environment』誌から出版されました。
研究背景: 「人新世」は、人間活動が地球環境を大きく変えた現代を表す言葉として広く使われています。しかし、開始時期や意味は分野によって異なり、2024 年には地質年代としての正式提案が退けられました。一方、1950 年代以降の「大加速」に伴う変化が、完新世とは異なる地球システムの状態を生み出したことを示す証拠は増え続けています。
研究方法: 第1 論文は、5 大陸、8 種類の堆積環境に分布する12 地点の地質記録を、プルトニウム、放射性炭素、煤粒子、炭素・窒素同位体、マイクロプラスチック、生物相変化など複数の指標で比較しました。第2 論文は、この地質学的証拠を、地球システム科学、人文・社会科学、教育、政策、国際法での人新世概念の利用と結び付けて検討しました。
主要結果1: 12 地点の多様な地質記録で、1952 年前後に人工放射性核種、化石燃料燃焼由来物質、工業汚染物質、生物相の変化が集中しました。とくに239+240Pu の急増は、地点間の時間差が小さく、地球規模で対比できる境界指標と評価されました。
主要結果2: 1950 年代以降、大気中CO₂は完新世水準を51%、CH₄は157%、N₂Oは28%高くなり、2024 年の世界平均気温は産業革命前より1.5℃高い水準に達しました。これらは、現代の変化が完新世の比較的安定した条件から大きく外れていることを示します。
主要結果3: 人新世を長期にわたるすべての人間影響の総称として扱うだけでは、1950年代に始まった地球規模の急変が見えにくくなります。研究グループは、1952 年開始の「人新世」と、それ以前から続く人間影響を区別し、明確な用語で共有することが科学的比較と社会的意思決定に有効だと論じました。
本研究は、人新世をめぐる議論を、地質記録に基づく精密な時間定義と、社会での活用という二つの側面から統合した点に意義があります。1952 年を境界とする定義により、完新世の安定した環境と、人間活動が支配的になった現代の地球システムを比較可能にします。また、気候変動、生物多様性の損失、汚染、資源利用など相互に関連する問題を、一つの地球システムの変化として捉える共通言語を提供します。
詳細はプレスリリースをご覧ください。
第1論文
著者:Waters, C.N., Zalasiewicz, J., Turner, S.D., Head, M.J., McCarthy, F.M.G., Kuwae, M., Han, Y., Fiałkiewicz-Kozieł, B., Wagreich, M., DeLong, K.L., Kaiser, J., Borsato, A., Zinke, J., Williams, M., Thomas, E.R., Rose, N.L., do Sul, J.I., Gałuszka, A., Cundy, A.B., Cearreta, A., Wing, S.L., Hajdas, I., Summerhayes, C.P., Saito, Y., Leinfelder, R., Barnosky, A.D., Stegner, M.A., Hadly, E., Jeandel, C.,
タイトル: Defining the Anthropocene using precise geological evidence.
雑誌名:Nature Reviews Earth & Environment,
巻、論文番号:7, 612–632.
出版年月:2026 年9 月
URL: https://doi.org/10.1038/s43017-026-00817-8
第2論文
著者:Zalasiewicz, J., Thomas, J., Head, M., Cohen, K., Vidas, D., Sörlin, S., Waters, C., Summerhayes, C., Leinfelder, R., Wallenhorst, N., Syvitski, J., McNeill, J., Robin, L., Williams, M., Cearreta, A., do Sul, J.I., Park, B.S., McCarthy, F., Han, Y., Turner, S., Rose, N., Galaz, V., Nystrom, M., Cundy, A., Richter, D., Gałuszka, A., Wagreich, M., Zinke, J., Grinevald, J., Barnosky, A., Hadly, E., Shotyk, W., Renn, J., Saito, Y., Palmesino, J., Michinobu K.,
タイトル: Future directions for Anthropocene research and its applications.
雑誌名:Nature Reviews Earth & Environment,
巻、論文番号:7, 633–646
出版年月:2026 年9 月
URL: https://doi.org/10.1038/s43017-026-00820-z

